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変わりゆく合成繊維

―東レの糸の進化史―
1926年の創業以来、東レは合成繊維の研究と開発に力を注ぎ、長年にわたって多種多様な糸を生み出してきました。東レの進化の軌跡を、合成繊維の歴史と一緒に紹介します。
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1920年代 
はじまりはレーヨンから

レーヨンは人類が初めて生み出した再生繊維です。植物から取れる「セルロース」を化学的に処理して絹のように細く長く加工したのがレーヨンです。19世紀後半に西欧で開発されたこの糸は、絹に似た光沢と手触りをもち、絹よりも安価なことから、たちまち爆発的な人気になって日本にも多く輸入されました。
日本でも国産レーヨンを製造する会社が次々設立されました。東レもそのなかのひとつです。当時の会社名「東洋レーヨン」は、東レがレーヨン製造を目的に設立されたことに由来しています。

初紡糸のレーヨン糸で刺繍した花鳥図東レ記念館(滋賀)にて展示
初紡糸のレーヨン糸で刺繍した花鳥図
東レ記念館(滋賀)にて展示
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1950年代 
合成ポリマー繊維の誕生

その後、新しい製造方法の合成繊維が登場します。それが1935年に米国デュポン社が開発した「ナイロン」です。天然化合物を原料としたレーヨンとは違って、ナイロンは石油が原料です。石油の中に含まれる炭素分子を人工的につないで高分子(ポリマー)を合成することで作られるのです。
植物から採取して作るレーヨンと違って、一からポリマーを合成していくこの技術は、合成方法や分子の種類を変えることができ、さまざまな性質の繊維を生み出すことができました。
-合成繊維によって時代が大きく変わる転換点-そう感じた東レはこの流れに乗り遅れないように、合成繊維の自社開発に積極的に乗り出し、独自の技術でナイロンの合成に成功しました(のちにデュポン社と提携)。また、1957年に英国ICI社からポリエステルの技術を導入、次いでアクリル繊維「トレロン」を自主開発。三大合成繊維のナイロン、ポリエステル、アクリルのすべての事業を手掛け、これらを合わせて世界第3位の生産実績をあげるまでに成長しました。

愛称 未来技術遺産第1号のナイロン紡糸機(1943年)
愛称 未来技術遺産第1号のナイロン紡糸機(1943年)
国立科学博物館により「日本で初のナイロン製造装置」として認められ、重要科学技術史資料に登録された。(2008年10月9日に登録証を受領)東レ総合研修センター(三島)にて展示
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1960年代 
異型断面が鍵 シルック®の誕生

複雑な光を放つ表面と、しっとりとやわらかい触感のシルクは、誰もが魅了される高級素材です。1964年に発売したシルック®は、シルキー合繊のパイオニアです。絹断面の構造を追及し、三角断面の原糸による優雅な光沢としなやかでソフトな風合いを表現しました。

1964年に発売した、三角断面の原系 Sillook®
1964年に発売した、三角断面の原系 Sillook®
シルクのような・・という意味をこめてシルック®と。
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1980年代 
天然繊維を超える「新合繊」時代

この時代においても、シルキー合繊は進化し続け、次に目指したのは絹がもつ質感や感触に近づけることでした。
1984年には、原糸を三花弁断面形状化して絹鳴りのする「シルックロイヤル®」が誕生しました。さらには絹への挑戦だけでなく、技術の発展、融合により多様な合成繊維が生み出され、1980年代には「新合繊」と呼ばれる合繊のブームが湧き起こります。これまで天然繊維に学び、その利点を取り込んでいた合成繊維が天然繊維にはない合繊独自の質感を表現する時代となりました。

新合繊の特長は次の4つのカテゴリーに分類することができます。

  • 絹を超える質感と膨らみをもつ「ニューシルキー」
  • さらりとした触感の「ドライ」
  • 桃の産毛タッチの「ピーチ」
  • ウールとは異質のソフト感の「ニュー梳毛」

東レは、これらの特長を発展させた多数の新製品を次々と開発し、多様なファッションを生み出しました。

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2000年代 
あらたな価値の追求

新合繊ブームで花開いた合繊技術はさらに進化していきます。合繊独自の質感の追求から「感性」と「機能」の融合による新しい価値の追究を目指しました。
素材の追求の例としては、「透けにくい白」を追求した星形の芯鞘糸使用のテキスタイル「ボディシェル®」が機能性付与の代表例です。また、極細のポリエステル・ナイロンの複合糸を追求したハイマルチコンパクトテキスタイル「アーティローザ®」が生まれました。これら誕生の背景には、異なる成分のポリマーを同時に紡糸する複合紡糸技術の集積がありました。ドライで心地よい触感とふくらみのあるしなやかさをもち、エレガントな新しいファションと快適な機能性が可能となりました。
さらには複合紡糸技術の極細糸製造技術への応用により、天然繊維では存在しない超極細繊維の質感をいかした合繊独特のファッションテキスタイル「uts®」も誕生しました。
これらはほんの一部ですが、東レの「極限追求」という精神から生まれた新しい糸は、人々のファッションだけでなく生活に変化を起こしました。―より便利に美しく、自由な活動ができるように―東レはファッションや生活や文化を見据えて原糸を開発し続けました。

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2014年 
革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」新技術の
登場

2014年、東レに革新的な出来事がありました。
複合紡糸技術「NANODESIGN®」が誕生したのです。ナノメートルサイズの精度で複数の繊維の断面形状を自在にデザインできる新しいこの技術は、繊維づくりを根底から変えました。
これまでも東レは、ファッション性と快適な機能性を目指してさまざまな糸を開発してきましたが、技術的な限界がありました。
それが「NANODESIGN®」の誕生によって、理想を極限まで追求できるようになり、テキスタイルが求められる快適性や機能性を逆算して糸を作ることができる時代に突入したのです。
東レの素材は「NANODESIGN®」の技術によってさらなる進化を続けています。

複合紡糸技術NANODESIGN®による原糸断面例 Kinari™
複合紡糸技術NANODESIGN®による原糸断面例 Kinari
シルクは2種類のタンパク質から構成されておりその構造を再現。キュキュッと絹鳴りを・・創造して。キナリと。

【NANODESIGN®関連素材】
(2021年9月現在)

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繊維にこだわり続けた
東レの研究力

東レは創業以来ずっと繊維を基幹事業として位置付け、研究開発を続けてきました。
長年の研究と経験の蓄積に、新しい技術が掛け算されるからこそ、東レの繊維は進化し続けられるのです。

素材には、社会を変える力がある。

これからも、糸の原料になるポリマーから試行錯誤を重ねて、ファッションを生み出していく企業として、
東レはさまざまなイノベーションを起こしていきます。

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